公開: 2021年5月3日
更新: 2021年5月30日
2016年1月の米国大統領選挙で、トランプ大統領候補を強く応援した米国国民は、白人男性、福音派キリスト教徒、工場労働者階級が多かったと分析されている。これらの人々は、保守的で、古いプロテスタント系キリスト教徒の価値観を持ち、米国社会が産業化社会に移行し、最も繁栄した時代(1930年代から1960年代)に最も豊かになった人々である。
この層の人々は、1980以後の日本の台頭によって、米国の経済が揺らぎ始めると、真っ先にその影響を受けてレイオフの対象となった全米自動車労働組合(AWU)の組合員など、米国経済が最も繁栄した時代に中産階級に登った人々であり、米国の繁栄の恩恵を最も強く受けた人々であった。しかし、高品質な日本車や日本製電気製品の台頭で、仕事を失い、貧しくなった人々でもある。
この人々対してトランプ大統領候補は、「米国を再び、世界一豊かな国にする」と約束して、大統領選挙戦を戦った。具体的には、次の3つを約束した。世界平和を維持するために増強してきた米軍を縮小し、自国の防衛に専念させる。世界の潮流である「温暖化対策」は、米国経済の停滞を招くので、実施しない。大幅な金融緩和で、米国企業の経営基盤を強くする。
この2番目の政策は、従来型の産業である石炭産業や、古い自動車産業を守り、失われた雇用を元に戻し、ラストベルトと呼ばれる、ピッツバーグ、クリーブランド、デトロイトなどの、錆びついた中西部の大都市に人々を呼び戻す契機になると信じられていた。しかし、この貧しい白人労働者達の期待は、裏切られた。米国経済の発展の過程で、製造業や石炭産業は、すでに衰退していたのである。世界経済のグローバル化の米国経済への影響は、そのような小手先の対策では、全く弱まらなかった。豊かな人々との格差は、米国社会の中で、ますます広がったのである。
America: What Went Wrong?、D. Barlet & J. Steele、Mission Point Press、2020
すでに起こった未来、P. ドラッカー、ダイヤモンド社、1994